１．法華経の二大テーマ

　　　　法華経では釈尊滅後の衆生を救う為の教えが説かれています。

　　　　　�@一切の者に差別無く成仏の道が存在する（一仏乗）

　　　　　�A仏の寿命は永遠であり常住である（久遠実成）

　　　　法華経はこの二つの主題を壮大なたとえ話しにより、釈尊滅後の

　　　我々に示しているものです。

　　　（１）一仏乗（二乗作仏の教えによる平等思想）

　　　　　釈尊の弟子として修行をはじめた二乗と呼ばれる者達は法華経

　　　　以前の教えでは、釈尊より徹底して嫌われており成仏は叶わない

　　　　とされていました（なぜかは別稿で説明します）。釈尊の教えは元々

　　　　古代インドの差別主義を糾弾する平等主義の筈です。

　　　　　彼等二乗の者達も法華経の中では成仏が可能であることを釈尊

　　　　は説きました。仏の教えにより全ての衆生が成仏することが可能で

　　　　あること、また仏の教えは全ての存在に対してあまねく平等である

　　　　ことを示した訳です。これを一仏乗といいます。

　　　　　なお､ここでいう成仏とは人が亡くなるということではなく、我身その

　　　　ままで苦難、困難を克服するということです。わが国では死亡するこ

　　　　とを「お釈迦になる」、「成仏する」と例えますがこれは誤りです。この

　　　　こと（俗にいう葬式仏教の考え）がわが国における仏教理解の悪弊

　　　　の一つになっているのではと私は考えています。仏教の教えは生き

　　　　とし生けるものの悩みを克服することである点を認識する必要があり

　　　　ます。

　　　（２）久遠実成の教えによる釈尊滅後の衆生救済

　　　　　釈尊は菩提樹の下で忽然と覚りを開き仏になられたと思われてい

　　　　たが実はそうでは無いということを示しています。この教えを理解す

　　　　る為には、仏教では因果律（簡単に言うと原因があって結果が存在

　　　　するという考え）が基本と成っていることを知る必要があります。事物

　　　　が存在・消滅する、事件が発生・解決する、悩みが発生・解決する、

　　　　安楽を感じる、苦痛を感じる、これらは全てある原因から生じた結果

　　　　であると考えます。皆さんこれは直感的に納得できますよね。仏教で

　　　　は我々がこの世に存在するのも原因があったからと考えるのです。

　　　　　釈尊が菩提樹の下で覚りを開いたのは一つの結果であり、その原

　　　　因があると考えるのです。さらに、その原因、その原因、‥‥、と遡っ

　　　　て行くと、釈尊は五百塵点劫（ごひゃくじんてんごう）という永遠の昔に

　　　　覚りを開き成仏をしていたということになるのです。この永遠の過去世

　　　　に於いて成仏した釈尊を久遠実成の釈尊と言います。ここで歴史上

　　　　に実在した釈尊と永遠の命を持つ釈尊を考える必要がありますがこ

　　　　の点は少しずつ進めていきましょう。

　　　　　法華経の中では釈尊が過去世においても仏であったことを明かし、

　　　　過去世においても法華経を授持していたことを明かしています。

　　　　　また、釈尊は自分の滅後の弘教者を募り、諸菩薩達は応じるのです

　　　　が釈尊は用いられません。大変な困難に立ち向かえるものでなけれ

　　　　ば求めに答えることは出来ないということです。そこで大地より上行

　　　　菩薩をはじめ数多の菩薩達が湧出します。その場にいて訝る諸菩薩

　　　　達に対して、釈尊は地涌の菩薩達は久遠実成の以前より釈尊に仕え

　　　　ていた弟子であるということを明らかにするのです。こうして釈尊は

　　　　滅後の弘教を上行菩薩達へと委ねるのです。